【解説】1959年伊勢湾台風に関連するデータについて
令和6(2024)年9月19日から12月21日にかけ、名古屋大学減災連携研究センターでは「第36回特別企画展示 伊勢湾台風65年〜災害対応・復旧記録資料の調査分析と検証から〜」を実施しました。この企画展示では、それまで十分に整理・活用されてこなかった様々な行政資料などをもとに、伊勢湾台風に関するデータをマップ上に再現することを試み、多くの見学者から好評を得ることができました。その成果を、2025年から本システム(ISM)でも公開しています。
以下では、特徴的なデータについて、マップの見かたやそこから分かることの解説を行います。また、文末には各データの詳細な出典についても記します。
名古屋市湛水日数
最大何日間にわたって、その地域が水に浸かっていたかを示す分布です。地域によって湛水していた日数には大きな開きがあることがわかります。庄内川以西が1ヶ月以上湛水していたのは、海岸堤防が大きく損傷してしまったことと関係しています。また名古屋港周辺において、明治以降に埋め立てられた工業地帯は標高が高いため比較的早期に水が抜けたのに対して、より内陸側は干拓によって形成された土地であるため標高が低く、2週間以上も湛水していたことがわかります。このような土地の成り立ちに基づく、標高と水害の関係については、旧版地図や陰影段彩図を見ることで確認できます。また、将来の津波や高潮による浸水でも同じような被害が想定されます。
広域湛水日数
名古屋市よりも広域の湛水状況を示しています。細部については名古屋市のデータよりも大雑把な区分になってしまいますが、特に庄内川以西に広がる広大な海抜ゼロメートル地帯において、名古屋市内よりもさらに長く/広い地域が湛水していたことに驚きます。地方部では名古屋市内に比べて復旧が遅れていることに対し、不満の声が上がっていました。広域かつ大規模な災害が発生すると、行政の対応が追いつかないことがよくわかります。これは、今後の津波や高潮災害においても想定しておく必要があります。
決壊堤防締切工事完了日×広域湛水日数
愛知県が実施した決壊堤防の仮締切工事について、発災から完了までにかかった日数を示しています。注意が必要なのは、堤防工事は愛知県、名古屋市、建設省(国土交通省)など多数の機関によって分担実施され、ここで示しているのは愛知県が行った工事のみであることです。よって、データで示されていない場所でも堤防は決壊していましたし、復旧工事も行われていました。広域湛水日数と見比べると、長期間湛水していた地域では堤防工事が完了するのも遅かったことがわかります。海抜ゼロメートル地帯では堤防が復旧しない限り海水が流れ込み続けるために、堤防復旧工事の手が足りなかったことが長期湛水の原因となったと考えられます。
年代別道路
被害からの復旧工事を行うにあたり、道路寸断によって工事車両が通れない事が大きな課題となりました。そこで、一刻も早い復旧とその後の復興のために、伊勢湾台風を契機とした道路整備が行われました。国道23号(名四国道)はその最たるもので、当時は災害復旧道路とも呼ばれました。このデータは、各年代の古い地図を比べることで「ある道路がいつ頃整備されたか」を推定した結果であり、赤い線が1959年~1960年にかけて整備されたと考えられる道路です。ただし、あくまで古い地図からの推定結果であり細かく見ていくと誤差が含まれることには注意が必要です。
10月17日時点の避難所
広い範囲が長期間湛水したことにより、公民館や小中学校など「通常の避難所」が利用できない地域が多く発生しました。このため、被災者同士の助け合いによって、例えば名古屋港周辺の工業地帯では工場建物や社員寮などが臨時の避難所として提供されました。また特に建物被害が大きかった南区などでは、(位置が不明なためデータ上示していませんが)個人宅での被災者受け入れも多数ありました。同時に、発災から3週間が経ったこの時点でもまだ湛水している地域に避難者がいることに驚かされます。
伊勢湾台風後の航空写真
発災からおよそ2週間後の状況を、大変生々しく読み取ることができます。例えば、名古屋港にかつて存在した8号地貯木場(現在の名古屋高速道路船見IC付近)では、高潮に煽られて多くの木材が市街地へ流入した様子がわかります。この木材は当時名古屋の主要産業だった木工品加工業を支えるために輸入されたもので、1本あたり長さ5m、重さは数トンに及ぶ巨大なものでした。そのため、空中写真にははっきりと写っていますし、付近では木材によって破壊された建物の写真(アイコンをタッチ)を見ることもできます。また、港区南陽町の付近では海岸堤防が寸断され、一面が海水に覆われていることもわかります。
【データ出典】
・名古屋市湛水日数
出典:名古屋市総務局調査課, 伊勢湾台風災害誌, 1961年
背景地図は、国土地理院 旧版地図(2万5千分1地形図 昭和中期 昭和22~45年)を使用を使用しております。
・広域湛水日数
出典:洪水・被害状況図(伊勢湾台風による高潮・洪水状況調査報告 付図), 建設省地理調査所(現国土地理院), 1960年
背景地図は、国土地理院 旧版地図(2万5千分1地形図 昭和中期 昭和22~45年)を使用を使用しております。
・決壊堤防締切工事完了日×広域湛水日数
出典:愛知県, 伊勢湾台風災害復興誌, 499p, 1964年
背景地図は、国土地理院 旧版地図(2万5千分1地形図 昭和中期 昭和22~45年)を使用を使用しております。
・年代別道路
出典①:杉本賢二・奥岡桂次郎・谷川寛樹, 日本全国を対象とした経年道路データの構築,土木計画学研究・講演集, Vol.50, 6p, 2014年
出典②:明野和彦・星野秀和・安藤暁史, 旧版地図を利用した時空間データセットの試作,国土地理院時報, No.99, pp.89-102, 2002年
背景地図は、国土地理院 旧版地図(2万5千分1地形図 平成 (平成10~22年)を使用を使用しております。
・10月17日時点の避難所
出典:名古屋市, 昭和34年10月17日被災者収容調べ, pp.12, 1959年
※上記地図データの背景地図は、国土地理院 旧版地図(2万5千分1地形図 昭和中期 昭和22~45年)を使用を使用しております。
・伊勢湾台風後の航空写真
米国国立公文書館所蔵の空中写真を一般財団法人日本地図センターが入手しオルソモザイク写真を作成https://info.jmc.or.jp/isewan/